温暖化対策

Q19. 日本の温暖化対策を十分にやっているのでは?

A. それは神話です。温暖化対策のランキング順位は、主要国の中では下から数えた方が速いです。

<解説>

政府が作った温暖化対策先進国神話

確かに、日本は深甚な公害を克服し、1997 年には京都議定書を生んだ気候変動の国際会議(COP3)を京都で主催しました。しかし、その後の温暖化対策は他の主要国と比べて見劣りするものです。例えば、温暖化対策の国別ランキングを発表しているドイツのシンクタンク「ジャーマンウオッチ」は、世界 56 カ国と欧州連合(EU)を対象に、1 人当たり温室効果ガス排出量や再エネ割合など 14 の指標を用いて総合的に温暖化対策のパフォーマンスを分析しています。その結果、2020 年の最新版では、日本は 5 段階評価で最下位グループに入る 58 カ国中 48 位でした。2019 年は 57 カ国中 46 位、2018 年は 58 カ国中 47 位、2017 年は 58 カ国中 57 位でした(表 2)。日本は、1990 年代から石炭火力発電量を増加させており、東日本大震災の前も国際社会の評価は低かったです。例えば、温室効果ガス排出削減目標を評価している国際的なシンクタンクである Climate Action Tracker は、これまでの日本の数値目標を「不十分」と評価しています*27

表 2     Climate Change Performance Index における日本の順位

2011201220132014201520162017201820192020
35/5640/5844/5847/5850/5855/5857/5847/5746/5748/58
出典:Climate Change Performance Index 各年版 https://www.climate-change-performance-index.org/

注:分母は対象となった主要排出国の数、分子は日本の順位をそれぞれ示す。

先進国の中ではほぼ日本だけが今でも石炭火力新設

明らかに、評価が低い大きな理由の一つが石炭火力です(前述のように、日本は東日本大震災の前も石炭火力重視でした)。現在、日本は G7 各国で唯一、国内での気候変動や大気汚染に悪影響が大きい石炭火力発電の新規事業を推進し、G20 諸国の中で 2 番目に多くの公的投融資を海外の石炭事業に対しても行っています。石炭大量消費の継続は、日本も批准したパリ協定の目標に反するものです。そのため、世界各国が消費をなるべく速くフェーズアウトしようとしている燃料が石炭です。すなわち、石炭を重要視して活用していくのは、世界の潮流に逆行するものであり、国際的な非難の対象となっています *28。例えば、E3G というシンクタンクは、G7 各国の石炭政策を評価する「石炭スコアカード 2019 年」において日本を最下位と評価しています(図12)。

図 12 G7 の石炭政策を評価する石炭スコアカード(2019 年)出典:Burrows and Littlecott(2019)

石炭火力輸出も問題

日本の公的資金を使った海外での石炭火力発電所建設も問題です。国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、 国際協力機構(JICA)などを使って、日本は、G7 各国で唯一、海外での石炭火力発電事業を国が推進しており、G20 諸国の中で 2 番目に多くの公的投融資を海外石炭事業に対して行っています。2013 年 1 月から 2019 年 5 月の間に日本の公的金融機関は、167億米ドル(約 1 兆 7700 億円)を 6 カ国(インドネシア、ベトナム、バングラデッシュ、モロッコ、インド、チリ)、18 の石炭火力発電所に提供しており、このような日本の公的資金による海外での石炭火力発電所建設は温暖化を促進するだけでなく、大気汚染によって 30 年間で最大41 万人の早期死亡者を発生させると推算されています(Son et al. 2019)。

国連の温暖化サミットのスピーチ国から除外

2019 年 9 月 23 日に、ニューヨークの国連本部において温暖化問題に関するサミットが開催されました。その際に、日本は、温暖化対策に後ろ向きな国として、オーストラリア、韓国、南アフリカ、サウジアラビア、ブラジルとともに、スピーチを国連事務局長から拒否されました(Financial Times, Sep.20, 2019)。これは、通常の国連外交ではありえない措置であり、外交的には日本にとって極めて大きな汚点と言えます。それくらい日本の温暖化対策、あるいは無対策は批判の的となっており、国際的な評価は極めて低いです。

COP25 での批判

2019 年 12 月のスペイン・マドリードで国連気候変動枠組条約第 25 回締約国会議(COP25)でも日本は批判されました。例えば、会期終盤の 12 月 11 日、環境 NGO の国際的な連合体である CAN International が開いた記者会見で、「どの国が目標引き上げの議論に消極的か?」という質問に、壇上のパネリストが「オーストラリア、米国、日本」「いつものメンツ(usual suspects)」と答えています。同様の発言は、他の場所で他の NGO からも聞かれました。このような厳しい批判を受けているのが日本の温暖化対策の現状です。

*27

https://climateactiontracker.org/countries/japan/

*28

石炭火力の CO2 排出量は「高効率・次世代火力」とされる超々臨界圧(USC)で 820g/kWh 程度、石炭ガス化複合発電(IGCC)では 650g/kWh 程度と、ガス火力のガスタービン複合発電(GTCC)の 340g/kWh 程度に比べて 2 倍以上です。すなわち、石炭は、高効率であってもフェーズアウトしなければパリ協定とは整合しない発電技術です。