再エネ

Q16. 再エネの発電コストは高くて、かつ不安定なのでは?

A. すでに化石燃料と同等あるいはより安価になっています。これからも価格は下がり続けます。現時点での再エネの普及率のレベルでは、安定性確保のための大きな追加投資は必要なく、かつ将来的には蓄電池などが普及すれば問題ないです。その蓄電池の価格も急激に低下しています。

<解説>

再エネのコストは急激に低下

米国、欧州、中国などでは、再エネの発電コストが最も安くなっています。日本の再エネのコストは、これらの国に比較して割高ですが、それでも日本で 2019 年 9 月に太陽光発電の買い取りを目的に実施された第 4 回入札の平均落札価格は 1 キロワット時あたり 12 円 98 銭であり、2012 年の再エネ固定価格買取制度(FIT)開始時の買取価格 1 キロワット時あたり 48 円の約 4分の1になっています。そして、日本の太陽光発電のコストは 2030 年には現状の 3 分の1になると予想されています(木村 2019)。国際エネルギー機関(IEA)は、多くの国で再エネが最も安価な電源になっていることから、2016 年から 2040 年までに行われる発電設備投資の 2/3 は再エネ発電設備へ向けられると予想しています(IEA 2017)。

現状の再エネ導入レベルでは安定性は問題ない

IEA(2014)は、太陽光と風力などの変動電源の系統連系において、現時点で適用可能な柔軟   性(需給調整)対策の総合的な評価に基づくと、変動電源の高い導入シェア(変動電源の発電量割合として 40%まで)は、長期的には電力システムにかかる費用コストの大きな増加なしで実現できるとしています。実際に、再エネの導入量が多い国(例:ドイツやデンマーク)などにおいて、すでに電力供給の信頼度や品質の安定に問題ないことが明らかになっています(例えば、安田 2016)。同じ IEA(2014)は、再エネ普及の障害となっているのは、1)変動電源統合を既存系統への付加と考える古典的かつ保守的な見方の存在、2)このような転換で起きる勝ち組と負け組の発生、の二つをあげています。すなわち、変動電源の系統接続の問題は、技術的な問題   というよりも、既存企業の権益をどれだけ保護するべきかという政治的な問題だと認識されています。

原発も石炭火力にも多額の補助金

しばしば、再生可能エネルギーは、FIT 制度のもと、莫大な国民負担に支えられて投資が進んできたと批判されます。しかし、このような批判は、以下のように一面的なものです。

第一に、日本では、極めて長い間、原発や石炭火力は総括原価方式によって、投資コストは利潤を載せた上で規制料金によって回収されてきました。これは、私たちの電気代や税金が原発などへの補助金となっていたことを意味し、その原発マネーが、2019 年10 月に発覚した関西電力、原発立地自治体、地元請負企業との間の巨額のお金のやりとりに使われました。すなわち、世界においても日本においても、長い間、原発や化石燃料に対して多額の補助金が政府(原資は国民) から供与されており、それは現在においても変わらないです。例えば、田中(2019)によると、2019 年度の日本のエネルギー関連予算の 8 割は原発と化石燃料関連です。またエネルギー関連の研究開発費は、1990 年代から 2011 年まで原子力と化石燃料が 7 割以上を占めており、2016 年時点でも約 6 割を占めています(IEA 2018)。このようなエネルギー関連の予算や補助金を、単年ではなく、これまでの累積で考えれば、圧倒的に原発と石炭への国の補助金が多く、これはドイツなどでも検証されています(Weiss 2014)。そのような状況で、日本の現時点での再エネの国民負担のみを議論するのは論理的ではありません。

再エネ賦課金は一定期間後ゼロに

第二に、再エネの普及を目的とした再エネ固定価格買取制度(FIT)による賦課金は、一定期間後、ゼロとなります。実際に、ドイツなどでは 2020 年代前半で賦課金の大幅な低下が想定さ

れており、日本でも 2030 年頃をピークに大幅に下がることが予想されています。また、前述のように、すでに多くの国では、この FIT の存在によって、再エネは、FIT や補助金なしでも化石燃料や原子力に比較してコスト競争力がある発電エネルギー技術となっています。インターネット技術などを例示するまでもなく、政府が幼少産業を財政的な支援を用いて育成する制度はどのような技術分野においても不可欠であり、再エネの場合だけ特別視するのはおかしいです。

将来の送電コスト削減に貢献

第三に、系統整備や系統安定化のための追加コストの中でも最も大きいのは、巨大電源を維持するための長距離の超高圧送電・変電システムの更新です。電力システムを巨大集中型から、小規模分散型に変換することで、これらのコストを一部削減することができます。もちろん、分散型の電力システムにおいても送電・変電システムは必要です。しかし、現時点での再エネに対する短期的なコスト負担のみに注目し、巨大電源を維持するための長距離の超高圧送電・変電システムの更新については触れず、長期的な世界の趨勢を無視するような議論は問題だと言えます。

Q17. 太陽光発電や風力発電は広大な土地が必要なので日本での導入は難しいのでは? 景観破壊問題は?

A. 日本全体の土地利用状況を考慮すると、再エネの導入ポテンシャルは極めて大きく、土地利用に関する新しい手法であるソーラー・シェアリングなども開発されていま す。土地面積問題を伴わない洋上風力も大きなポテンシャルを持ちます。一方、景 観破壊などを減少させるような工夫も行われています。

<解説>

導入ポテンシャルは大きい

日本国内の太陽光発電の導入ポテンシャルについては、環境省が平成 21 年度から調査を行っています。具体的には、住宅(戸建、集合住宅等)、公共用建築物 (学校、市役所等)、発電所、工場、倉庫等 、低・未利用地(最終処分場等)、耕作放棄地(うち森林化・原野化している等) などを対象に、エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因による設置の可否を考慮したエネルギー資源量、政策、経済性の 3 つを考慮して計算しています。

日本全国の最新の平成 24 年度の調査(環境省 2013)では、日本の地域別に予想発電量を推計することによって精度の向上が図られるとともに、ポテンシャルの集計区分(住宅用太陽光、公   共系等太陽光)が見直されています。この結果、住宅用等太陽光発電と公共系等太陽光発電の合   計値は日本全体で 3 億 3,204 万 kW です。この値は、年間発電電力量で 3,490 億 kWh 程度となり、2011 年度の日本全体の発電量である 1 兆 1,131 億kWh の約 3 割程度に相当します。

風力発電については、環境省の平成 22 年度の調査では、陸上について、導入ポテンシャルが2 億 6,756 万 kW と推計されています。洋上風力については北海道、九州を中心とした地域で導入ポテンシャルが大きく、13 億 8,265 万 kW と推計されています。陸上と洋上をあわせた風力発電の導入ポテンシャルは 16 億 5,021 万 kW であり、これは、日本国内に現在ある発電設備の全設備容量をはるかに上回る量です。

ソーラー・シェアリング

用地不足問題を解消するものとして期待されるのがソーラー・シェアリング(営農型太陽光発電)です。これは、簡単に言うと農地で農業と太陽光発電事業を両立させる仕組みです。営農を続けながら、農地の上部空間を有効活用することにより発電収入を得ることができるので、農業経営をサポートするというメリットがあります。実際には、耕作地の上約 3m の位置に、藤棚の様に架台を設置して、そのうえに細幅の太陽光パネルを並べ、作物とパネルで光を分け合います(図 7)。作物としては、お茶、稲、さといも、サツマイモ、キャベツ、白菜、レタス、みつば、ブドウ、もも、梨、いちご、ねぎ、アスパラ、ナス、エンドウ、ミョウガ等が適しています。

図 7 ソーラー・シェアリング 出典:宝塚市ホームページより

このソーラー・シェアリングは、日本で増加する 40 万 ha 以上ある耕作放棄地 25の有効活用という観点でも活用が期待されています。特に千葉県で盛んに実施されていて、千葉大の倉阪秀史   教授らが各地の農業委員会に行ったアンケートによると、2018 年の夏時点で設置件数は全国で1,300 件を超えており、2019 年度中に 2,000 件を超えると言われています(朝日新聞 2019 年 9月 19 日)。

太陽光パネル付き自動車

屋根に太陽光パネルを取り付けた自動車も現実のものとなっています。例えば、2019 年 7 月に販売が開始された韓国の現代自動車の「ソナタ・ハイブリッド」は、ルーフ部分に太陽光パネ   ルを搭載した「ソーラールーフ充電システム」を採用したことで、燃費向上と CO2 排出量削減を実現しています。太陽光パネルでの充電は運転中でも可能で、1 日で、バッテリーの 30~60% を充電できます。1 日に 6 時間太陽光にあてて充電すれば、年間で最大 1300 キロも走行距離が延ばせます。

日本でも、現在、トヨタとシャープが共同で高効率太陽電池搭載のプラグインハイブリッド車(PHV)を開発しており、2019 年 7 月から公道での走行実証を行っています(図 8)。トヨタなどによると、走行時のバッテリーへの最大充電・給電電力量(1 日当たり)は、EV 航続距離で56.3 キロ相当にもなります 26。これは、日常の走行距離であれば太陽光だけで十分であり、ケーブル経由の充電は不要になることを意味します。このような自動車が、すでに走行実証をしてい   ることは非常に画期的なことであり、近い将来にガソリン車がなくなることが極めて現実的な予想であることを示しています。また、電気自動車のバッテリーを回収して家庭などで蓄電池として再利用する動きも活発化しています(日本経済新聞 2020 年 2 月 5 日)。

*25

以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地。

*26

トヨタは 2016 年にパナソニックのパネルをつかったプリウス PHV も発売しています。ただ最大充電電力量は 6.1km でした(https://newswitch.jp/p/5255)。

図 8 日本の企業連合によって開発中のソーラー・カー 出典:TOYOTA 社 HP https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/28781301.html

ゾーニング

一方で地域によっては、メガソーラーや風車の建設などをはじめとする急速な開発に対し、事業者と住民の間でのコミュニケーションが十分に取られず、計画への反対が起きる事例も見られます。このため、地域の自然・社会環境を悪化させない適切な立地地域を事前に地域の関係者で議論し、選定しておく「ゾーニング」の取組みが行われています。ドイツでは国の自然エネル   ギー目標値も勘案して、適地や抑制区域が定められています。